令和元年に滑り込みで結婚をした。滑り込みだったもんで、いわゆる両家顔合わせというやつを設ける機会もなく、また、相手方も私の方も今後顔合わせ出来る機会があるかと言われれば微妙なものだった。相手方は仕事の都合上、私の方は、祖父母の介護の都合上だ。互いの実家がそこそこに遠いので日帰りも難しい。結婚って面倒くさいな、と思った。
同時に、この面倒臭さを愛せない自分が心のなかにいることに気がついた私は、結婚そうそうにもしかしたら私がしたかったのは「結婚」では無かったのではないかと思い至った。彼のことは欲しかった。けれど私は冷酷なことに、彼以外の誰も全く必要だなんて思えないのだった。
好きとか嫌いとかではない。「要らない」。とても残酷なことを言っているのはわかっていて、それでも自分の両親や相手方の両親が彼に何かを口出ししたり、私と彼の生活やこれからについて何か言ってきたりなどすると、そういえば血縁関係が嫌いで仕方なかったから私は関東に出たのだったと思い出す。
結婚相手を間違えた、とは思わない。ただ、私に必要だったのは、たとえば「恋人契約書」とか、「パートナーシップ契約書」とか、そういう形のあるものだったのかもしれないと思う。
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「たとえば98歳でラブラブです!とか言われたらさ……まあ微笑ましいかもしれないよ? でもそれがずっと一途でまっすぐだったかはわからないじゃん」
「そやね」
誰のことを言っているんだろう、と思って私は滑稽で仕方なかった。そうだね、一途じゃないよね、あなたの場合は。
でもきっと、その一途じゃないあなたの血が流れている私だって、浮気者なんだろうけれど。
「結婚はスタートだからね。長いよ~。あんたら100歳まで生きるらしいとか言われてるし」
「無い無い」
リビングで母と会話をしながら、キッチンのテーブルの上に視線を滑らせた。そこには私の毎日飲んでいる薬のポーチとサプリメントが置かれている。こんなものをこんなに飲んでいて、長生きなんてできるわけないでしょうに。たかをくくったような、達観したフリのような、そんなことを思う。2019年も死ねなかったくせに。
「前にさ、子供の話したことあったじゃん?」
「ああ、子どもが欲しい欲しくないみたいな話?」
「うん。あれさ、まあ婚姻届を渡したのは11月で、渡そうと決意したのは10月末だったんだよね」
「結構早かったんだ」
「そう決心するまでに子どものことについてすごい考えてたんだけどさ、そしたら道行く子どもが目につくようになって」
「意識し始めたんだね」
「それで気がついたの。私、ちっちゃい子特有のあのぷっくりとしたほっぺた、めっちゃ無理」
「かわいいとかではなく?」
「うん。無理。なんか無理。すっごい無理。顔立ちの整ってる小学生の女の子とか見ると可愛いって思うけど、2,3歳児くらいのあのほっぺた無理」
「怖いとか?」
「怖い……うーん……まあもしかしたらそうかもしれないけど、とりあえず無理」
「感じ方は人それぞれだからねえ、まあ」
私だってぷっくりしたほっぺたの子どもだったどころか、今も丸顔ぷっくりほっぺのくせにね。
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年越しとかクリスマスとかバレンタインデーとかホワイトデーとかハロウィンとかそういうの、商戦って言いながらなんだかんだ重要視される文化なんか消えちまえばいいのにと思った。
謎に期待して金かけて裏切られたような気持ちになってバカみたい。そう思いながら、私はひとつの連絡先のブロックボタンを押したのであった。