水の都 しゃんどらんど

水の都での日常を記していきます。

学が無ければ額も無い

「そうね、学が無ければ稼ぐこともできないものね」

 

昼間の居酒屋でそんな話をして、ぼんやりと自分の学の無さを不意に恥じることになった。誰に指摘されたでもない、ただひたすら何かから逃げるように「受験勉強」ばかりを繰り返して世間にはちっとも興味を持たず、大学では講義も右から左に遊んでばかりいたことを思い出したのだ。

 

誰か指摘してくれればよかったのにな。「稼ごうとする」という行為がこんなに難しいことで、お前はこれだけ品定めされるのだぞ、とでも。言われても聞きやしなかっただろうけれど。自分のものさしで生きすぎた結果、世間のものさしからずれにずれて道が塞がって、媚びへつらってきっと大した価値もない自分の値段を見定めてもらうことしか出来なかった。少なくとも、今年の前半までは。私はどうやら悪運が強いらしいので、ゆるやかに死に近づくことをしてみていてもなかなかに難しいのであった。

 

 

ningenshikkaku-movie.com

水曜日だったので、ずっと気になっていたこの映画を観てきた。太宰治。私は彼に対してあまりに無知だ。それこそ、この公式サイトの年表を見て「そういえば太宰って走れメロスの作者だっけ」と思う程度には。はて、あまり興味が無いのにどうしてこの映画が気になって頭を離れなかったのかと言えば、例えばサイトの小栗旬の写真はあまりにも淫靡でため息を付いてしまうほどだからだったり、中学生のときに見た太宰治の著者近影が大層美形であった上に何度も自殺未遂を繰り返しているようなクレイジーさを持っていたからだったり、まあそのあたりではないだろうか。

 

何度でも言う。私は太宰治に対して本当に無知である。

だから、代わりにこの映画に出てきた「太宰治」について何かを語ろうと思う。

 

あらかじめ言っておくと、映画の感想なんて「このセリフの言い回し作家っぽくて好きだな」「太宰めっちゃクズやなウケる」「いやそんだけクズなんだから子どもがほしいって言われたくらいでそんなに同様すんなやw」「てか小栗旬の”クズ男の戸惑い”の演技上手過ぎる、愛してる」「チッあんまり小栗旬脱がねえな」「二階堂ふみの顔面めっちゃ可愛い」「あ~酒飲みたくなってきた!!!煙草も吸いてえ!!!」「太宰治好きすぎるけど絶対結婚したくねえ、恋はしたいし心中はしたい」くらいである。浅いでしょう?

 

私は「太宰治」を愛してしまった。もっと言えば、彼の人生を愛してしまった。愛おしい、なんて愚かで可哀想な人。そこで気がつく、ああそういえば私は根っからのクズ男好きだったっけと。

 

けれど、静子と”恋”をしていた彼は、とある引用をする。私は知らない作品だったので小説なのか映画なのか詩なのか聖書なのか、何もわからない。わからないけれど、その瞬間の彼からは、確かに「教養の香り」がした。私はこの香りにめっぽう弱く、そして同時に大嫌いでもあるのだ。このときばかりは惹かれてしまった。ああ、この男が私に向かって「死ぬ気で恋するか?」と問うてきたら私は迷わずイエスと答えるし、「一緒に死んでくれ」と言われた日にはイエスに一生分の感謝を捧げるだろう。それくらいこのときの彼は魅力的だった。だから、その後の不格好さがより一層愛おしく思えた。

 

 

ああ、彼を見ていたら私もまた小説を書きたくなってきた。けれど、私には学が無い。そして、私は「太宰治」に魅了された挙げ句、太宰治にすべての興味が傾いてしまった。彼を知りたい。……これこそきっと、大学でやっておくべきことだったのだ。

 

人生はいつでもやり直せる? 笑わせないでほしい。人はいずれ死ぬのよ。

……けれど、まだもう少しばかりは生きられる気がするから、彼に傾倒してみても良いかしら。良いわよね。だって、私の人生だもの。

 

はたして彼は、どんな「額」になってくれるのかしら。