水の都 しゃんどらんど

水の都での日常を記していきます。

低脂肪乳が怖い

低脂肪乳が怖いし、低脂肪乳は悪だと思っていた。

昔、母親に「うちの牛乳は良い牛乳なのよ」と、詰められていたことがあった。我が家は昔から生協の食品を多く使っていて、農薬や着色料などを人一倍気にしていた。

 

一方で、私は牛乳が嫌いだった。味もにおいも苦手で、ホットミルクにしてもおえっとなってしまうくらいに。毎朝牛乳は味付けもなくそのまま出され、確か息を止めながら一気飲みしていたと思う。しかし、給食で出てくる牛乳は違った。あの牛乳は平気でグビグビ飲めるのだ。家の牛乳と何が違うのかわからなくて、その延長線上で「給食の牛乳は飲めるけどうちの牛乳は飲めない。まずいから」というようなことを言ったのだと思う。それが母の琴線に触れたようで、次の日、食卓には牛乳が注がれたマグカップがぽつんとひとつだけ置かれていた。

なんとなく「いつもと違う牛乳」なのだということはわかった。わかったけれど、なぜそれが、それだけが食卓に置かれているのかわからなくて戸惑っていた。

 

「飲みなさい」

 

母の言うように飲んだ。兄が先に飲んで、「不味い」と一言顔をしかめてつぶやき、私も流されるままに飲んだ。「不味い」と言った。本当は味の違いなんてわからなくて、ただ牛乳全般が不味く感じられたから「不味い」と言ったのだった。しかし、母の表情を伺うに、それが正解だとも思って言った。朝っぱらからややこしい話をしたくはなかった。

 

すると、母は満足したように「でしょ? うちの牛乳は濃厚で美味しいのよ」と言った。私はわからなかったけれど、兄は同意しながら自分のマグカップにいつもの濃厚で美味しい牛乳を注いだのだった。

 

 

 

我が家にはXiaomiの体重計がある。これはMi Fitというアプリと連携させることで、体重から体脂肪から、ボディスコアを表示してくれる。その中で不足しているのはタンパク質と基礎代謝で、そこは食事や運動で補おうと頑張っているところだ。

ボディスコアの中に、骨量という項目がある。私はこれが標準だったが、標準の中でも不足に近い方で、カルシウムも補給した方が良いと判断した。そこで、近所のローソンストア100に購入しに行くことにした。

きっと一番高い牛乳が一番良くて美味しいはず、そう思っていた。目に入ったのは、カルシウムがたっぷり入っているという低脂肪乳だった。その下の段には普通の牛乳。200円以上する。対して、低脂肪乳は100円だった。しばらく悩んだ。悩んで、低脂肪乳を買うことにした。たとえ低脂肪乳がどんなに不味かったとしても、インスタントのミルクティーを混ぜて飲むつもりだったので味は変わらないと割り切り、もしも飲み難いものであれば次は普通のものを買えばいいだろうと判断したのだった。

 

 

結果、何の違いもわからずに美味しくミルクティーを飲んだ。

なんだこれ。私は一体何を怖がっていたのだろうか。

低脂肪乳」は以ての外、パッケージをよく見て「乳製品」ではなく「牛乳」となっているものを慎重に選んでいた過去はなんだったのか。

こうしてまたひとつ、私を縛り付けていた柵は去っていった。考えてみれば、「不味い」と口に出して怒る人はもういない。おそらく同居人も怒るなんてせずに「ほんまか、ごめん」なんて言うと思う。本人のせいではなくても。

 

 

じっと姿見を見つめる。自分を縛る真っ赤な蔦は透明になっていて目に見えない。果たして死ぬまでにいくつこれらは解けるのか。自縛の趣味は、首元のリボンくらいしかない。可愛くない紐はいらないから、可愛い首輪で頸動脈を縛る。さて、今日もいってきます。