水の都 しゃんどらんど

水の都での日常を記していきます。

ラブミーテンダー



#このエントリは3人だけ読んだことのある、それ以降永久に封印される予定であったものですが、自分のアドベントカレンダーの穴埋めとして使います。16日目の記事として読んでください。





恋愛が苦手だ。とてつもなく、苦手だ。人間も苦手だ。

でも、嫌いにはなれない。

 

昔から、全人類なんて贅沢は言わないから、せめて自分の中からは恋愛感情が無くなればいいと一貫して思っている。多分一貫しては嘘。色恋沙汰で傷を負うよりも、ひとりの寂しさに傷ついていたほうがマシだと思い始めた頃くらいから、憎く思うようになったのだろうと思う。

本当はあんまりひとりを寂しいと思ったことは無くて、ただ、一緒に居たかった誰かがいなくなってしまっただとか、他人ありきの願望が潰えただとか、そういう理由があれば―――つまるところ、自分の心の中に住み着いていた任意の他者を不本意に手放したとき、そこに空いた穴を埋めるすべが無くて、代わりに"寂しい"という感情が溢れ出てきていた。

 

そんな状態だった今年のある時期、マッチングアプリというものに触れてみた。

恋愛したかったのかと言われたら、したくはなかった。というか、今も思っている、出来る限り恋愛はしたくない。自分がそういう感情を持つのも、他人にそういう感情を持たれるのも避けたい。これはこの先もずっと同じだと思う。

でも、このときの私はどうしようもなく承認欲求に飢えていて、なおかつ、不特定多数ではなく目の前にいるたったひとりに必要とされたい、と思っていた。恋愛をしたくない好きになりたくないと思いながらも、このまま自分はもう二度と誰からも必要とされずに誰の一番にもなれないのだろうかという相反する思いに悩んでいた。それが、その時の私が抱えていた"寂しさ"の正体で、私が失ったものだったから。

 

どうしてマッチングアプリに触ろうという発想に至ったのかはあまり覚えていないけれど、確か、知り合いが使っていたことを思い出して、試しにインストールしてみたとかだったと思う。どのアプリが良いのかとかよくわからなかったので、名前を聞いたことのあるものを1つインストールしてみて登録した。最初は怖くてプロフィールの設定もおざなりにしていたけれど、最終的にはほぼ全部埋めた。

マッチングアプリは全部で3つほど触れてみたが(1つは「マッチングサイト」なので、ちょっと違うけれど…)、全機能を使うためには年齢認証が必要なので、免許証やら健康保険証やらの写真をアップロードしろというお達しがあった。おそらくどのアプリでもそうなのだろうと思う。しかも提出の必要のない情報の部分は画像を黒く塗りつぶしていてもOKらしく、なんじゃそりゃと思った記憶がある。プライバシーへの配慮があるのか無いのかわからない。

機能的にも大差は無かったように思う。位置情報から、自分と近い地域に住んでいる人がサジェストされたり、入力した好みのタイプからサジェストされたり。課金すればまた機能も変わったようだけれど、私は特に課金はせずにやっていたので、人のプロフィールを覗けば「あなたのプロフィールを見ました」という通知(いわゆる「足跡」というやつである)がいくし、ちょっと良いかもなんて思った相手に送ることのできるいいねの数は1日に上限がある。課金すればこっそりと相手のプロフィールを覗けたり、送るいいねの数を増やせたりする。確か大体が月額課金制とかで、最低でも3,000円以上したように思う。このあたりはちらりとしか見ていないので、うろ覚え。

 

初めはプロフィールの写真を登録するのをためらっていたため、誰かからのリアクションもほぼ来なかった。自分からいいねを送ろうにも、プロフィールも不十分で顔もわからない相手からリアクションがきたところでスルーされるのが関の山かなぁなどと頭を悩ませて、まずはプロフィールを埋めてみた。といっても、自己紹介というやつがすこぶる苦手なので、テンプレートの文章を出してきて、それを適当に改変しただけである。ありがたいことに、私のような自己紹介苦手人間のために大抵は数パターンのテンプレートが準備されているらしい。

もう何を書いたかもよく覚えていないが、とりあえず忙しいためあまりメッセージ返せないかもしれませんがご容赦ください的な文言(実際は連絡不精なだけ)と、のちにいわゆる「ウリ」のようなメッセージがくるようになって煩わしかったため、そういう類のメッセージはご遠慮くださいみたいなことは書いた気がする。雑に自己紹介文を書いて、その他の選択肢形式のプロフィールで自分の身体的特徴、性格、飲酒喫煙するか否か、子供がほしいか、みたいなものの設定をして、雑にプロフィール写真をアップロードした。思うところはあったが、もうどうでもよくなったというのが大部分を占めていたので、1年くらい前の自撮りにしておいた。

プロフィールを入力していて、なんで世界に向けて自分の身体的特徴だったり子供がほしいかだったり公開せなあかんねんとだんだんしんどくなってきたが、付き合って、結婚して……みたいな段階を踏む相手を探しているなら当然だよなぁと思い直す。いや、私は出会いを求めて始めたわけではないんですけどね……。

 

ちなみに、このアプリを使う前に他のマッチングアプリを試していて、そちらはプロフィールもほぼ記入せずに偵察を兼ねてみたが、相手に何らかのアクションを送ってみてもうんともすんともって感じだったので、妥協は必要なのだろうと思う。(妥協とは?)

 

で、入力してみたら、ぼちぼちと反応がき始めた。相手からいいねが送られてくるのである。承認欲求が刺激された瞬間だった。このアプリは相互にいいねを送り合って初めてメッセージの交換ができる(マッチング成立)という仕様なので、こちらからもいいねを返してみる。しばらくすると、相手の方からメッセージが飛んできて、挨拶もそこそこに探り探りでお互いのことを聞くだったり自分のことを話してみるだったりする感じ。承認欲求を満たすことは出来るかもしれないが、人数が増えてくるとこれが結構神経をすり減らされてしんどくなってくる。この時点でもうお察しだが、私は人間関係に向いていない。人との連絡が続かないのだ。

そして、この「人数が増えてくる」というのもかなりネックで、ある人と「こういう食事・お酒が好き」という話をしていると思えば、同時進行で他の人と「休日はこんな風に過ごしていて、一緒にこんなことを出来る人がほしい」みたいな話をしているのだ。返信内容を考えていると、ふと何だこれ……と我に返ってしまう。どれだけ言い訳を並べたり体裁を整えたりしても、やり取りの内容は相手と自分がパートナーとして合うか否かを確かめているものであって、それを意識すると途端にすべてが気持ち悪く感じられてくる。相手がどうとかではなく、そういう会話を人と、しかも複数人と交わしている自分が果てしなく気持ち悪くて仕方なかった。誰と付き合っていたわけでもないけれど、浮気をしているような気分だった。

 

加えて自分が貧乏性なため、相手からいいねが送られてきたら、プロフィールを見て自分と合いそうにないと感じても、もしかしたらやり取りをしたら何か変わるかもしれないし……なんて考えて、すべてにいいねを返していた。自分で自分の首を締めるのが得意なのにもほどがあったと思う。

同時に、虚しさを感じ始めていた。私でさえこれだけの人数(といっても確か10人前後とかだったと思う)とやり取りしているのだから、相手はもっと大人数と色んなやり取りをしているに違いない。「プロフィール写真可愛いね」だとか、「好みのタイプだな」だとか、「会ってみたい」だとかは、私だけのための言葉ではない。私はこの人の特別なんかじゃないし、この人だって私の特別ではない。私が相手を選定しているように、相手も私の一言一句から私を選定している。手持ちのカードに残すか否かを。そして私は特別でもない相手の手札から外されてしまわないように必死で、承認欲求の奴隷に成り下がっていた。

事実、送ったっきりメッセージが返ってこない人もいた。メッセージの既読機能に加えて相手のログイン状態が見えるというのが厄介で、既読もついている上にログインもしているのにメッセージが返ってこないというのは、つまりはそういうことで……。大したやり取りをしていたわけでも会う約束を取り付けたわけでも無いのに、捨てられたような気がして悲しかった。それが更に私の中の空っぽな部分を刺激して、寂しさを募らせていった。最悪な悪循環だった。

 

そのうち、やり取り2回くらいで「自分はこういうアプリでのやり取り向いてないと思うんだよね~。LINEで話さない?」みたいなことを言われて、何かがぷつりと切れた。先に男性側のマッチングアプリのシステムを理解していればこうはならなかったかもしれないが、私自身はやり取りをこのアプリ内だけで完結させたいこと、よく知りもしない相手にプライベートで使っているLINEを交換したくなかったこと、じゃあお前このマッチングアプリ内でのやり取りとLINEでのやり取りは何が違うんだよ言ってみろやハゲみたいな気持ちになったことなどにより嫌気が差して、そのアプリを閉じた。消したり退会はしなかった。ただ、自分が一度冷静になるべきだと思ったのと、プロフィールを見てちょっといいかもしれないと思った相手にのっけから外部へ誘われたことで萎えていた。

 

が、そこでやめていればいいものを、もうひとつ登録していたマッチングサイトでのやり取りは継続していた。上記のアプリもそこそこに慣れてきた頃、一部の友人にのみマッチングアプリを使っているという話をしたら、友人も使っているとのことで、名前を教えてもらって登録したものだ。プロフィール設定は大体同じようにしていたが、一番の違いは、そのサイトは一方的にメッセージを送ることができるという点だった。

オブラートに包まずに言えば、合意が無くてもメッセージが送れる分、民度はひどいものだった。登録して即何通かウリのメッセージが来たことで、マッチングアプリはきちんとこの辺を守られてたんだなぁなんてぼんやり考えて、律儀に「そういうのは求めてないです、すみません」みたいな返しをしていた。今考えたら、ブロック機能とミュート機能はあったのだから返事をせずにそっちに入れればよかったし、というか、この時点ではもう自分が本来求めていたものなんて忘れているだろお前みたいなところもある。

 

初手でそんなメッセージが飛んできたことで、このサイトは売春目的かサクラしかいないんじゃないか……?と思ったりもしたが、案外まともっぽい人もいた。

上述した通り、誰にでもメッセージを送ることが出来るというハードルの低さから、マッチングアプリよりももらったメッセージの数はかなり多かった。ブロック数もまた然り。

 

 

まともなメッセージもそれなりにあって、感じのいい人もいた。大方みんなプロフィール写真を可愛いとかタイプだとか褒めるところから入るのだが(「プロフィール写真が好みだったのでメッセージ送りました~」みたいな)、そこには触れずに、「紹介文に個性があって気になったのでメッセージ送りました♪」というような内容のメッセージをくれた人がいた。よくよく考えてみればほぼテンプレを引用してるだけなのに何が個性だよとは思うが、その後も会話内容から人格を褒めてくれたりして、きっとこの人はリアルでも気遣いが出来て、人付き合いが上手なんだろうなぁと感じた。だからこそ、お世辞にも民度が良いとはいえないこのサイトにいることが不思議で、なんだか怖くもあった。どうやら、色々なサイトやアプリを登録していて、そのうちのひとつだっただけらしいけれど。

他にも、とてもストレートに「しゃみさん(※仮名)すっごい可愛くてタイプだったのでメッセージしました😁👏よかったらお話しましょう!!✨」みたいな感じのメッセージもあって、熱烈なメッセージありがとよ……となったりもした。このメッセージの何が良いかと言うと、こっちが返事をする前提で話してないことである。一方的に送れるサービスなんだから普通では? という感じがするだろうけど、これが結構多い。「◯◯しませんか?」ではなく「◯◯しましょう」だったり、ともかく会うことは決定しているような口ぶりだったりエトセトラエトセトラ。その点、さっくりと褒めてかつ返信の強要はしないという姿勢は素敵だな、と思った。残念ながら、この人はこのメッセージを関西弁で送ってきていて、私は関西弁(一緒くたにすると怒られが発生する)が非常に苦手だったため、控えめなお返事しかできませんでしたが。

 

 

 

まぁ、もちろんそんな感じのいい人は稀で、基本的には「この人リアルでもこんな感じであんまり気遣い上手じゃないんだろうなぁ」と思うやり取りが大半だった。基本的に初手でプロフ写真について触れられるので、私も初手で「このプロフィール写真は本人のものだが、1年くらい前に美容師さんにスタイリングしてもらったときのものなので、普段はこれよりもかなり地味です」という回りくどい説明をすることになるのだが、それに対する回答が「自分は地味でも大丈夫です」とかだったりする。シンプルに疑問に思うけれど、大丈夫って何?確かに褒められたような容姿はしていないけれど、上から目線のように聞こえてしまうので、もう少し言い方を考えてほしくはあった……。そのあたりをオブラートに包める人は、「自分はあまり派手めな人が得意じゃないので、落ち着いた雰囲気のほうが安心できます!」みたいな風に返してくれた。

自分もやりがちなので強くは言えないけれど、顔が見えない文字と文字のみのやり取りはかなり誤解が生じやすいので、出来る限り気をつけていきたい。それを気にしすぎて、文字でのやりとりは冗長になりがちなのも問題なんだけども……。

 

 

それから、これに関しては自分が悪いんだけれど、最初にプロフィールを設定したとき、サジェストされる相手の年齢の幅もあって、それを特に何も考えず自分の年齢+2歳~42歳くらいにまで設定していたら、半数くらいは40代のオジサマ方からのメッセージになってしまった。本当に好みだけでいえば44歳くらいまでは許容範囲なのだけれど、現実でも20歳年下の異性を狙う人ってヤバイのに、出会い系ともなると尚更である。会話していて、「自分はもう20年以上前だけど、よければ就職活動のアドバイスもできる」みたいなことを言われて、一周回って笑いそうになったりもした。(失礼)

まぁ、冷静になると、自分の子供と同じ年齢であってもおかしくないくらいの子に、恋愛関係になる前提で話をしているというのは得も言われぬ気持ち悪さがあるし(あくまで相手が気持ち悪いのではなく、行為が気持ち悪いという話)、その逆も同様に気持ち悪いと思う。

 

 

 

思い出せるのはこれくらい。ヤマもオチもないのに無駄に長くなってしまった。

最終的に、プライベートでどうしようもなくなってしまったときに全部退会手続きをして、アプリもアンインストールした。それ以来その手のものにはアクセスしていない。

上手く使えば承認欲求をいい感じに満たされたり、いい人と出会えたり、恋愛関係には至らないにしても友人としてどこかに遊びに行ったり食事をする人が見つかったりするのだと思う。上手く使えば。上手く使えた人がいたらブログにでも一筆したためてください。私はこの先、ひとりが怖くなったり結婚したくなったりしても、多分、マッチングアプリは使わないだろうなと思います。

 

 

最後にひとつだけ豆知識(?)を書いておくと、基本的にマッチングアプリ類の退会は、設定画面などに「退会」という項目が設けられていなくて、お問い合わせとかよくある質問とかの欄の退会の項目から飛ばないと手続きできないので、やってみようと思ってる人は参考にしてみてください。当然ながら、アプリのアンインストールだけではアカウントは削除されないのでお気をつけて。それと、退会したら1ヶ月は再登録出来ないとかもあるので、ご利用は計画的に。